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ヒビノコエ

日々徒然与太話やちょっぴしミリタリネタなど好き勝手に呟く場所。腐発言、オタ発言注意ですよ。
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貢物:食み合い 

茅野さん(tsubana)がTwitterで溢れんばかりの優雨螢愛を語っていらっしゃったので、Twitterつながったー記念兼茅野さん脱稿祝いに書かせていただいたものです。
ちなみにリクエストは「優雨の手料理を食べる螢」でした。残念な脳みそで変換したところ「優雨の手料理を食べる螢をあとで食べる優雨(勿論性的な意味で)」的な小説になりました\(^q^)/
ただ、性的な意味での場所に行く前に完結しちゃったという更に残念な仕上がりに・・・(ノ´∀`;)

↓以下ネタバレと気持ち悪い語り↓

螢は病気がちな姉に代わって姪姉妹の相手をしてきてるのできっと家事とかもそこそここなすと思うんですよ。
まぁ、多分姪姉妹が小さい頃は螢の実親も子育てを手伝ってくれてたとは思いますが。
んで、出来ないことはないけど、油断するとすぐジャンクに頼る。
そんな螢を見かねて、優雨は時々ご飯作ったりお掃除したりしてる。
勿論、見返りアリでw見返りは勿論螢じしn(ry
そんなバカップルぶりを発揮してればいいと思う今日この頃です。


はい、そんなわけで優雨螢と茅野さんへの愛だけで書き上げた色々と消化不良起こしそうな小説はいつも通り追記からどうぞ
















行き交う人々の足取りがどこか速くなり、家路につき始める黄昏時の夕闇に照らされながら、作家天倉螢は真っ白な原稿と対峙していた。
随分と長い時間そうしているような気がするし、ほんの少しの時間だったような気もする。
即ち集中しすぎて時をも忘れているということなのだが、それでも螢の頭には原稿に書き付ける文章が一句も見つからない。
何度か無理に書こうと万年筆を走らせてみたが、それは朧げで不確かな文字の羅列にしかならず、丸めて捨てられた原稿用紙は机の周りに散乱してどこか寂しげに夕明かりを受けている。
これは、非常にまずい・・・。
螢は冷や汗が噴出しそうになるのを何とか耐えながら頭を抱える。
というのも原稿の期日がまさに今日その日であって、それを破るということは担当の編集者にも迷惑をかけるということ、そしてその担当編集者が螢の親友である麻生優雨だという二重のプレッシャーが螢の思考を更に追い詰めていた。

「・・・くそっ・・・・・・あと少しなんだけどな・・・」

誰もいない部屋で毒づいてもその声は空しく響いて消えるだけで、螢は乱暴に頭を掻いて万年筆を握りなおした。
何としてでも、今日中に仕上げて優雨に渡さねば。
もはやそれは強迫を含んだ使命感を伴っていたが、躍起になってでも完成させないとどんな目に遭うのかを螢はよく理解している。
それだけは、絶対に回避せねば。
何とか浮かんだ文字を忘れないうちに原稿用紙に書き付けていく。
焦りからか汗ばんだ指が万年筆をすべり、焦って書いた文字は誤字だらけでそんな自分にほとほと嫌気がさすが、今は原稿を仕上げることが先決で、螢は只管ペンを走らせ続けた。

一度集中してしまうと、周りの雑音も景色も何もかもを遮断出来る性質が功を奏して、原稿はあれだけ出出しで悩んでいた割にすらすらと進み始めている。
何度か躓き、その度に原稿を丸めては放り投げていたが、それでも執筆ペースはいつもと同じ程を取り戻しつつあり、螢は胸中で安堵した。

その刹那

自宅に取り付けてある電話が、けたたましいベルを鳴らして家人にその存在を知らしめる。
丁度調子が出てきたところではあったが、とりあえずペンを置き、席を立って螢は電話へと向かいそっと受話器を持ち上げてみれば、電話の相手は大方の予想通り担当編集者の麻生優雨だった。

「もしもし、天倉ですが・・・」

「もしもし、編集の麻生です。原稿、どうですか?」

「あー・・・うん、あらかた・・・出来てはいるよ」

「・・・・・・〆切、今日ですよ?覚えてますか?」

「・・・・・・ごめんなさい」

電話越しでも非常に棘を感じる声に焦り、見えるはずもないがぺこりと謝罪をする。
そして考えるのはありったけの言い訳であるから、螢がやれヘタレだ情けないだと言われるのはある意味的を得てるともいえよう。

「・・・いや、あれだ八割は出来てるんだ。これは本当なんだって!あとはオチだけなんだよ」

「それで、書き上がったとして・・・終電に間に合います?」

低く柔らかい声音で非常に非情に原稿の催促をしてくる友のキツイお灸に泣きそうになるが、そういわれてみれば今は何時だろうかと螢は伏せていた顔を上げた。
先ほどまで広がっていた夕明かりはとうに消えうせ、薄暗い室内に点る明かりはない。
どうやら、集中しすぎて時間が経つのも忘れていたらしい。
窓からは夕闇が広がり、遠くにぼんやりと月が上がり始めているのさえ見える。

「・・・あー・・・・・・終電は・・・」

受話器のコードをありったけまで伸ばしながらそれを肩に挟み、灯りの紐を引っ張ればジジッと小さく音が鳴って蛍光灯が点き、部屋がぐっと明るくなる。が、それと同時にその部屋の惨状も露にする。
あまりにも散らかった自身の部屋に軽い目眩を覚えながら螢は時計に目をやった。

「・・・・・・今日中に原稿を届けることは・・・できそうだが・・・終電がなくなりそう・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「あ、その・・・・・・本当にごめんなさい・・・」

非情に情けないと思いつつも素直に謝罪を述べ、優雨の出方を見るべく押し黙ると、優雨は一つ嘆息したのち

「わかりました。こちらの業務が終わり次第、そちらに伺いますから」

そう、螢に告げた。途端に螢の表情は目に見えて明るくなる。

「ああ、そうしてくれると助かる。いつも本当にありがとうっ!」

「・・・・・・では、後ほどに」

チンと電話の受話器を置き、螢は明るい表情で再び机に向かう。
こうして、いつも優雨に甘えてしまうのは悪い癖だとは思っているが、原稿を取りにきてもらうことをダシに優雨に会えるという事実にやはり心が躍ってしまう。
優雨が来るまでに少しでも原稿を進めよう。
螢はペンを握ると、真剣な表情で再び文字を走らせ始めた。

そうして、小一時間ほどたった頃、玄関のチャイムが一つ鳴り客人の訪問を螢に知らした。
その軽快な音に気づいた螢は慌てて玄関へと向かい、客人を迎え入れる為にそのドアを開く。
そこに立っていたのは・・・非常に機嫌の悪い表情をした親友麻生優雨の姿。

「・・・編集の麻生です。早速お邪魔しますね」

にこりといつもとは違う恐ろしいほどまでに愛想を貼り付けた笑顔を向け、靴を脱いで上がってくる友人の背を見送り螢はその後をついていくように玄関を後にする。
優雨は手にしていた鞄をソファーの横にそっと置くと、その恐ろしい笑顔を貼り付けたままくるりと螢を振り返った。

「で、あとどれくらいで仕上がりそう?」

編集者麻生優雨の仮面を脱ぎ去り、親友麻生優雨の顔で優雨は小首を傾げた。
螢は申し訳なさそうに頭を掻きながら、机に向かい仕上がった分の原稿を優雨に手渡す。

「電話でも言ったが、あとちょっとなんだ。オチがしばらく浮かばなくて・・・。でも、何となく形は出来てきたから、そこまで時間はかからないと思う・・・」

「本当だ。思ってたより随分と出来てるね。えらいえらい」

優雨が子供にするように螢の頭をなでなでと擦り、受け取った原稿を何枚かめくっていく。
しかし、すぐにそれをテーブルの方に置くと部屋をぐるりと見渡して酷く重い息を吐いた。その表情は、明らかに困っているように眉尻が下がり、顔に浮かべられるのは苦笑の類だ。

「・・・部屋も酷い有様だね。螢、ちゃんとご飯食べてるの?」

「・・・あー・・・・・・今朝買い置きのカップ麺を食べつくしちゃってから、何も食べてない・・・ような・・・」

「今朝から!?・・・いくら締め切り前で切羽詰まってるからって、それは良くないよ螢・・・」

驚いて目を見開いた優雨が首を横に振り、心配そうな表情で螢を見つめる。
螢は肩を竦め、仕方なかったんだ。と子供のような言い訳を並べて原稿に目を落とし、しばらく原稿を見つめていたが、ふと妙案を思いついたのか顔を上げ、優雨を見あげて一つ提案をした。

「あ、じゃあ今から一緒に外食にでも・・・」
「そんな暇あったら原稿が何枚書けますか?」
「ごめんなさい・・・・・・」

螢の無謀な提案は、それを言い切る前に恐ろしいほど爽やかな笑みを浮かべた優雨の表情と容赦ない突っ込みによって却下され、螢は肩を落としてしょぼくれた。
朝から何も食べないでいたのは集中できていたおかげで、今優雨に指摘されてその事実に気がついてしまえば腹の虫は突然その存在を示し始めて絶え間なく鳴き続けては螢を責め立てる。
それを聞きとがめた優雨がまた一つ嘆息するのを情けない顔で見上げ、螢は困った表情で小さく笑った。
こういう時にどうにかしてくれる男が優雨なのだと、心の底から期待しているのである。
優雨はもう一つ盛大なため息を吐き、仕方ないなというように肩を竦めて台所へ向かった。

「冷蔵庫にあるもので、何か作るよ。開けていい?」

そう呟きながら冷蔵庫に手をかける優雨を見守っていた螢だが、はたと最後に冷蔵庫を開けたのはいつだったかと素朴な疑問を抱いて腕を組んでみた。そうして、記憶を辿ってみれば、非常にまずい現実を思い出し視線が泳ぎだしてしまう。

「あー・・・優雨・・・・・・冷蔵庫には・・・」

「・・・・・・うわっ!螢どういうことこれ、何も入ってないじゃないか!」

優雨が驚いた声を上げて台所から顔を出して螢に声をかける。
頬をぽりぽりと掻いて、先ほど思い出した非常にまずい現実の説明をしなくてはいけない羽目になった螢は、困った顔で小さく苦笑するしかなかった。

「・・・うん・・・・・・さっき思い出した。冷蔵庫の食材が尽きたから、備蓄のカップ麺に手を出して、それも切れたから今に至る・・・的な・・・?」

「・・・・・・いつか倒れるよ・・・螢・・・」

「そんなに柔に出来てないぞ?普段はちゃんとある程度自炊してるし、腹が減ればちゃんと食ってるし」

「・・・・・・仕方ないなぁ・・・。じゃあ、僕が食材買ってきて作るから、螢はその間原稿仕上げることに専念して。・・・何が食べたい?」

がっくりと肩を落とした優雨が鞄を取りにリビングの方へ戻ってくる。
螢は優雨の提案に頷き、未だ鳴り止まない腹の虫を満足させてやれるメニューをあれこそれ頭の中で考える。
なるべくなら、優雨の負担にならないものがよいだろう。それでいて、腹にたまるものがいい。
頭でそれは理解していたが、どうにもこうにもここまで腹が減ってしまっては、浮かんでくるのは好物のメニューばっかりだ。
今から買出しに行き、調理するのであればなるべく簡単に出来るものが良いと思っているのに、飢えた腹と脳は螢の考えとは裏腹なメニューを候補に上げ続ける。
腕を組み、しばらく考え込んでいた螢だが、メニュー候補が一つに絞られると何故か消え入りそうな声で

「・・・・・・・・・ハンバーグ・・・」

そう、答えてしまっていた。
その声を聞きとめた優雨が予想外のメニューにぷっと吹き出し、くくくっと喉を鳴らす。
だから、もっと普通っぽいメニューを必死で考えていたのに・・・。
螢は情けない顔を隠すように頭を抱え、だって食べたいんだから仕方ないだろう!と言い訳にもならない言い訳を優雨に喚いて顔を真っ赤にさせる。

「螢・・・・・・っ・・・螢って・・・結構子供じみたメニューが・・・っ好きなんだね・・・・・・っ」

腹を抱え、優雨が心底可笑しそうに笑い出せば螢はもう形無しで、何とでも言えと言った態度でふてくされたように机に頬をついて不機嫌そうなため息を吐くしかない。
ひとしきり螢に笑った優雨は笑いすぎて目に溜まった涙を指先で拭ってから、財布と車のキーを握り締め、玄関へのドアに手をかけ、扉を開く。

「了解、了解。とびっきりのハンバーグを作ってあげよう。そのための食材を買ってくるから、待っててね」

そう言い残し、閉まるドアを見送ってから、まだふてくされた顔のままの螢は原稿に再び向かう。
なんだかんだとからかわれてはいるが、結局のところ優雨はそれでも螢の言うことを良く聞いて世話を焼いてくれる。
それは親友というよりは母親のようで、どこか新婚夫婦のようでもいて、螢はふてくされていた顔が自然と綻んでいくのを感じていた。
ああ、幸せだ。
そんなありふれた感情を抱きながら。




「ただいま、螢」

スーパーの袋一杯の食材や備品を抱えながら、優雨が螢の自宅のドアを開き部屋へと足を運ぶが、家主の返事はない。
思わず忍び足になりながらそうっと机の方を向いてみれば、螢は優雨が帰ってきたのも気づかないほど集中しているらしく、真剣な表情で原稿用紙にペンを走らせていた。
斜め後ろから伺えるその表情はとても凛々しく、先ほどまで赤面しながら夕飯にハンバーグを所望した彼とはまるで別人のように引き締まっていて、優雨はふっと破顔する。
いつもこうやって真剣な顔していれば、それなりにかっこいいのになぁ。
そんなことを考えながら、螢の邪魔をしないようにそっと台所へ向かい、レジ袋を台所の隅へ下ろす。
あれだけ集中して仕事をしているのだ。彼の腹も心も満たせるようなハンバーグを作らねばなるまい。
優雨はすぐに使わない食材などを冷蔵庫にしまいながら、ぐっと自分に気合を入れる。
幸い、多少は自炊をする螢によって粗方の調理器具等は用意されており、調理に困ることと言えば狭い台所いっぱいにカップ麺や備蓄食料のゴミが広げられていることくらいだろう。
ゴミ箱もすでにゴミで溢れかえっているので、新しいゴミ袋に散乱したゴミを放り入れていく。シンクに無造作に放り込まれていたカップ麺の容器も同様に。
そうして、台所を綺麗にした後は本題のハンバーグを作らねばならない。
玉葱はみじん切りにして、バターと一緒にフライパンで炒めてあめ色に。
挽肉に塩を混ぜてよく練り、柔らかく馴染んできたら一旦ラップをして冷蔵庫へ。
洗った手の水を切りながら、ああエプロンがあればよかったのに。そんなことを考えてしまう自分に優雨は失笑する。

「どこの新婚さんなんだか・・・」

螢の担当編集者となって、どれくらい経っただろう。
最初は、本当に締め切りに間に合わないということで自宅まで原稿を取りにきた。
そうすれば、見えてくるのは締め切り前の作家の現状と惨状というやつで・・・。
ハンバーグに入れるパン粉に牛乳をまぶしながら、遠い日の懐かしい記憶に優雨は目を細めた。

『天倉・・・さん・・・・・・えっと・・・どこに座れば・・・?』

『・・・適当に・・・もう、その布団の上にでも座ってくれ・・・』

そう、申し訳なさそうに頭を掻いた若手作家先生の目には大きな隈が縁取られていて、辺りに散乱しているのが惣菜や弁当の空き箱とカップ麺ばかりだという現状に、相当切羽詰まっているのが簡単に読み取れ、また、自分が原稿が出来上がるのを待っているだけということが出来ない性分なのもあり・・・

「絆されちゃったなぁ・・・」

ふやかしたパン粉の上から高野豆腐を削り入れ、更にナツメグを加えてゴムベラで軽く混ぜ合わせるとふわりと香辛料の香りが鼻腔を掠める。
あの時も、こうやって螢の為に部屋を軽く掃除し、飲み物を差し出し、やはり朝から何も食べていないという彼の為に食事の用意をした。
あの時は、簡単な物をと思ってパスタを茹でただけだったのだが、いつの間にか彼の要求は大胆になり、今はこうしてハンバーグの下ごしらえをしている。何だかそれが可笑しくて、優雨はまた一つ笑みを浮かべながら下ごしらえを進めていった。

『・・・だがしかし・・・・・・』

『いいから、食べて下さい。残り物で作ったのでこちらの財布は何も痛みませんし。それに、食べて栄養をつけないと出るアイディアも出ませんよ?』

『・・・・・・ありがとう・・・。いただきます・・・』

そうちゃんと礼を言ってちゃんと手を合わせてパスタを頬張る螢を、ニコニコとしながら見守ったことが遠い昔の出来事のようで、昨日のようにも思える。
冷蔵庫に入れてあった挽肉に先ほどのパン粉と卵、それに炒め玉葱を加えて混ぜ合わせながら、優雨は目を細めた。
いつからだろう。そんな彼の友人になりたいと思い始めたのは。
どこか、危なっかしいところがあり、しかし場を和ませる雰囲気と懐っこい性格を持ち、ノンフィクション作家をあの年齢で渡り歩けるほどの聡明さに惹かれた。
やんちゃそうな顔立ちも、自分にはない逞しい体も、いつしか全てに惹かれていった。
あの時は本気で悩み、常識と自分の気持ちの狭間で張り裂けそうになっていた。焦がれた相手が男性だったなど、真冬にさえ相談出来ない。
まぁ、彼は割とすぐに気づいてしまったのだが。
出来上がったタネを両手に交互に叩きつけながら、優雨はフッと小さく息を吐いた。
悩み悩んだ結果、真冬にも知れ渡ってしまい、あの時はもうこのままどこか遠くへ旅立ってしまおうなどと意味不明なことも考えた。肝心の螢自身はまるで優雨の気持ちに気づかないでいるから、余計にやきもきとしてしまって・・・やたらと世話を焼きだしたのも、それくらいからだったように思える。
形を整えたタネの真ん中を凹ませ、油ごと熱したフライパンへそっと入れれば、すぐに肉汁がじゅうと跳ね、香ばしい音を立て始める。
それからは、ずっとこの調子だ。母親か妻のような役どころだとは思う。けれど、今はそれだけではない。
フライパンに蓋をし、蒸し焼きにしている間に手早く使った調理器具を洗い清める。
布巾の上に調理器具を立てかけて水を切り、蓋を開けてハンバーグを裏返してまた蓋を閉める。
あとは、ソースを作って絡め、付け合せを作れば完成だ。ハンバーグが崩れていないか蓋をちょっとずらし、綺麗な形をかたどったままなのを見届けると安堵のため息を一つつき、優雨はそっと机に向かう螢を台所から伺う。
担当作家から恋焦がれる相手、そして今は優雨の最愛の人とランクアップを続けた彼の人は、未だに真剣な表情で原稿用紙と対峙していた。
あの、真剣な眼差しを自分にも向けてほしい。そう思ったあの頃から随分と経った。
今では、望まないでいても、彼の方からその目を向けてくれ、優雨を求めてくれる。

あの頃は思いもしなかった。まさかこんな結末を迎えるなんて。

冷蔵庫に入っていたケチャップと優雨が購入してきたウスターソースを混ぜ合わせ、蓋を取り払ったフライパンに流し込むと、それは肉汁と交ざって何とも形容しがたい美味なる香りを醸し出す。
そうしてしばらくハンバーグを煮込んでいると、即席ソースも良い粘度まで煮詰められてフライパンの中でぐつぐつと良い音を立てていた。

「さて、完成っと」

食器棚の皿を取り出し、ハンバーグを二個乗せそこへ即席ソースをそろりと垂らし、茹でておいたジャガイモと人参、それにアスパラをそっと添えれば、丁度炊き上がったぞとばかりに炊飯器が電子音を響かせる。
それを茶碗に山盛りに盛っていると、部屋の方からバタバタと大きな音が響き、そして螢が

「終わったー!!!」

と叫んでいるのが聞こえるものだから、優雨の顔はやれやれと自然に綻んでいった。

「お疲れさま、螢。ちょうどご所望のハンバーグも出来上がったよ」

そう言いながら、ハンバーグが乗った器をローテーブルに並べていくと、机の上を整理しながら溜飲が下がった顔をしていた螢が待ってましたと言わんばかりにこちらへやってきて、優雨の向かい側に座る。
待ちきれないのか、並べられるハンバーグと白米に目を輝かして覗き込んでいるその姿はまるで子供のようで、優雨はクスクスと笑みが漏れてしまうのを止められない。

「帰ってきたの、気づかなかったよ。途中からいい匂いがしだして気づいたんだが。ありがとうな、優雨」

そう言って白い歯が見えるほどの笑顔で礼を言われれば、買出しから始めた甲斐があったというものだ。
優雨はコップに茶を注ぎながら、冷めないうちにどうぞ。と手で軽く指し示しながらわざとらしくボーイがするように螢に会釈をする。
それをどこか楽しそうに見届けた螢はあの時のようにしっかりと手を合わせ、

「じゃ、いただきます・・・っ!」

そうちゃんと挨拶をしてから、箸を手に取り、ハンバーグを割り崩していく。
一口それを頬張ってうっとりとするように微笑むものだから、この友人でもあり恋人でもある螢という男性が自分より年上なのだということを、優雨はしばしば忘れて子供にするように接してしまう。
今もまた、そんな螢を可愛らしいと思ってしまったが最後、がっつくように食べる螢の頭にそっと手を乗せ、わしゃわしゃと撫でていたのだから、螢は少し驚いたように優雨を見上げてきた。
ふと目が合い、その真っ直ぐな瞳に息が詰まる。

「螢が朝から何も食べてないなんて知ってたら、食事してこなかったのになぁ。一人で食べるよりは二人で食べる方が美味しいよね、ご飯は」

「まぁな・・・。でも、優雨の飯は一人で食べても美味いぞ。このハンバーグなんてふっくらしてるのに崩れてないし、中までしっかり味が滲み込んでるし・・・」

「ふふ、ありがとう。それね、豆腐の代わりに高野豆腐を繋ぎに入れてるんだ。そうすると、柔らかくなりすぎなくてふっくらするんだよね」

「へー・・・。手が込んでるのな・・・・・・」

「そりゃあ、とびっきりのハンバーグを作ると約束しましたから」

「・・・・・・ありがとうな・・・」

ふふっと笑いながら受け答えをすれば、螢は照れたように頬をほんの少し赤らめて礼を述べるのだから、本当に可愛らしい。
優雨は胸がじんわりと温かくなっていくのを感じながら、そっと身を乗り出し、そして螢の頬へちゅっと音をわざと立てて唇を押し当てた。
そしてくすぐるように舌先で頬を舐めれば、螢は固まったまま更に顔を真っ赤にさせて呆然とする。そこがまた、可愛らしくて堪らなくなる。

「ソース、ついてたから」

くくっと喉を鳴らしてそう言ってみれば、だったら普通に教えてくれればいいだろうと螢の不満声が聞こえてくるが、まんざらでもないのはよくわかっている。

「一緒に食べられないから、後で螢を美味しく食べてあげるね。僕へのご褒美ってことで」

だからこそ、冗談めかして片目をぱちんと閉じてそう言い、食事が終わればどうなるのかを、敢えて宣告してみる。
きっと彼は、文句を言いつつも従順に優雨の言うことを聞いて深く堕ちてゆくのだろう。
今から、それが楽しみで仕方ない。

「・・・っばっか・・・お前締め切り明けの作家を休ませるて考えはないのかよっ。しかも意味がわからん」

「ふふっ・・・僕だっていっぱい螢の為に頑張ったんだから、少しくらい美味しい思いしてもいいだろう?それに・・・」

「・・・・・・・・・?」

「弱きは強きに食される。ってね。螢を美味しくいただくために美味しいものを食べさせてるなんて、何だか食物連鎖みたいじゃない?」

「・・・・・・優雨の方がピラミッドの上か・・・」

「だって螢が食べられる側だからね」

最後のハンバーグの欠片を口に放り込みながら、螢が呆れたように笑うのが見える。
クスクスと笑いながら優雨は頬杖をついて、そんな螢の頬をそっと撫でた。

そうだよ、螢。
螢を愛して愛して愛し尽くせるのは僕しかいない。
螢をどうするのもどうにかするのも、壊していいのも僕だけなんだ。

だから・・・

そんな僕をどうするのもどうにかしていいのも、壊していいのも
螢だけなんだよ




 食み合い

  君を食べていいのは僕唯一人
 君が食べていいのも僕唯一人

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遮那々(しゃなな)
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性別:
女性
職業:
プチ軍オタ主腐
趣味:
ゲーム、物書き、妄想、自衛隊イベント探索、お菓子作り
自己紹介:
零の親友トリオとSIREN2の自A隊をを心より愛するただの腐ったナマモノ。
特にヘタレ螢叔父さんが大好物の様子。
SIREN2では沖三永スコップ。
ホラー、サスペンス、オカルトが大好物の物書きナマモノですが、怖いのは苦手です。
もっと文章上手くなりたいと思いつつ、閃きで書いてるので一向に上手くならない様子。

ミリオタ女の下っ端端くれでもあるので、時々そういうネタも投下するかも?右でも左でもありませんよ!

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